本解説(牙を研げ)

 今回は、以前紹介した「牙を研げ」の第7章(武器としての数学)を解説します。この「牙を研げ」は内容が面白いため、章ごとに解説していきたいと思います。

 

内容の解説

 この章はまず、日本人の数学能力が低下していることを、著者の経験をもとに説明するところから始まります。外務省で働いていた著者は昔、大学院(恐らく文系)を卒業している、外務省で働く人間をロシアの大学へ留学させたことがありました。しかし、彼らは成績不良で退学となりました。理由はいくつかありましたが、その一つが数学に関する学力が不足しているため、であったそうです。大学院を出て、さらに外交官試験まで合格している人の数学能力が低いことに対し、著者は危機感を抱いたそうです。

 次に日本人、特に文系の数学能力がなぜここまで低くなったかについて考察しています。その原因は、各大学が自身の偏差値を高くするために、入試科目を少なくしていったことにある、と説明しています。例えば、Aさんは数学・理科の偏差値が35で社会・国語の偏差値が70、Bさんがすべて65だとします。この二人が、同じ大学を受験し、Aさんが合格し、Bさんが落ちたとすると、この大学は偏差値70で合格し、65だと不合格になる、つまりハイレベルな大学とみなされます。このようなことを多くの大学が考えた結果、少数科目入試の導入が浸透していったといいます。入試科目を減らすとなると、一番のやり玉に挙げられたのが数学で、これにより数学を勉強する人が減り、結果数学の力が低下していったと著者は説明しています。

 さらに、少数科目制度だけでなく、マークシート方式の試験方法も問題があるといいます。マークシート形式にすることで、数学を考える科目から暗記する科目へと変化させてしまったからだといいます。

 その後、著者が数学の大切さを理解したエピソードが紹介され、数学と論理は密接な関係があること、数学は帰納的でなく演繹的な学問であるという説明が続いていきます。最後に、数学や経済数学を取り扱った良書を紹介し、数学は学びなおすことが出来るというアドバイスで話が終わっています。

 

感想

 この本の中で著者は、別の本から、「数学は暗記科目でない」という意味合いのある内容を引用しています。ここから、著者も数学は暗記科目ではないという考えに賛成してると思われます。しかし、私の個人的経験に基づくと、数学は暗記の要素も必要であると考えます。赤点を取るレベルで数学が苦手だったころは、基礎的な数学の知識も足りていませんでした。でも、基本の部分を暗記して頭に入れることで、それを前提に応用できるようになり、そのレベルになったときはいろんな問題を考えながら解くことができるようになっていました。この点は自分と本の間に意見の違いがありました。

 しかし、数学が大事な学問であるという点は自分も同意見です。数学の問題を解くことは、色々試行錯誤して考えること、また、他の人にも分かるように、論理が破綻しない説明を考えることとイコールだからです。これらを考えるのは、社会人になって特に求められると感じております。

 また、うまく解答出来たら爽快感もあるので、著者の言うように、数学を学びなおすのも良いと思います。

 数学を学びなおせば、論理的な思考力が向上するかもしれません